かぐまのちから石は、栃木県那須烏山市小木須地区のお話です。

昔々、現在の栃木県那須烏山市小木須地区に、一人の木こりのお爺さんとアカという名の犬が仲良く暮らしていました。アカは、お爺さんと一緒に山へ薪(たきぎ)を取りに行く時も、町(現在のJR東日本烏山線烏山駅周辺)に売りに行く時もいつも一緒でした。

ある日、山道の藪の中で、一頭の熊が怪我をして動けないでいました。可哀そうに思ったお爺さんは、傷の手当てをしたり餌を運んだしてせっせと世話をしました。おかげで熊はすっかり元気になり、アカと一緒にお爺さんの手伝いをするようになりました。

やがて数年の時間が経ち、ある冬、お爺さんは病と戦うことになり、熊とアカはお爺さんの看病をしました。

お爺さんにお茶を飲ませた時、そのお茶が喉につっかえ、お爺さんは苦しみ始めました。アカは急いで医者の家に行き、小木須地区の人達もお爺さんが苦しんだと聞きお爺さんの家に集まります。

医者がお爺さんの家に到着した時には既に予後不良の状態で、お爺さんはとうとう死亡が確認されてしまいました。「あの時お茶をのませなければ…」と考えがちですが、生き物は種類によって生存年数がほぼ決まっており、人間の平均生存年数は85年前後と言われています。お爺さんは病では無く老衰で死んだと考えられます。お爺さんは小木須地区の人達の手で埋葬されました。

さて、飼い主を亡くしたアカと熊は、お爺さんの墓の前から離れず餌もとらずに座り続けました。そして数日後、アカがお爺さんの後を追う形で餓死すると、熊は大声で鳴き続けて山の木立の中に立ち去っていき、終いには熊も黄泉の国に旅立ちました。

その後、お爺さんの家の跡地に近い坂の登り口に、熊の形に良く似た大きな石が現れました。通行人がこの石に「かぐまのクマさん。この荷車の後押しをしておくれ。」 とお願いすると、まるで熊が後押ししてくれるように楽に坂を登る事が出来ました。その付近を「アカ熊」と呼び、いつしか「かぐま」と言うようになりました。また、その石の事を「かぐまの力石」と呼ぶようになりました。これが、那須烏山市小木須地区の字名「加熊」の由来になっています。