一匹の猫が、輪廻転生を繰り返すお話です。黄泉の国に旅立った猫が、再度この世に生を受け、それを100万回繰り返します。猫の寿命が15年前後なので、100万回だと、1500万年前後と言うことになります。

昔、ある所に1匹の猫がいました。その猫は、死んでは生まれ変わり、生まれ変わっては死ぬ行為を、100万回以上繰り返していました。ちなみにこの猫は、虎猫で、死んで生まれ変わる行為を繰り返すあいだに、100万人の人達に飼われていました。

ある時は王様の猫になりました。猫は王様が嫌いでした。その王様は、戦争が開戦すると、戦場に猫を連れていきました。ある日、猫は、飛んできた矢に当たって死にました。王様は猫の死亡を確認すると、大声で泣きました。そして戦争を中止し、お城に猫の死体を持って帰り、それをお城の庭に埋めました。

その猫は再度この世に生まれると、今度は船乗りに飼われました。猫は海も船乗りも嫌いでした。船乗りは世界中の海と世界中の港に猫を連れていきました。ある日、猫は、船から落ちて、やがて海中に沈んでしまいました。猫は泳げなかったのです。船乗りが速やかに網でびしょ濡れに成って沈んだ猫を引き上げ、水を吐かせるなどの処置を取りましたが、猫はもう2度と動くことは有りませんでした。船乗りは、濡れた雑巾のように成った猫の死体を抱いて大声で泣きました。そして、港町の公園の木の下に猫の死体を埋めました。

その猫は再度この世に生まれると、今度はサーカスの手品使いの飼い猫になりました。猫はサーカスも手品使いも嫌いでした。手品使いは毎日、猫を箱の中に入れて、ノコギリで真っ二つにしました。そして元に戻すと、マルのままの猫を箱から出して、お客さんから拍手を受けました。ある日、手品使いは、間違えて、本当に猫を真っ二つにしてしまいました。手品使いは真っ二つになってしまった猫の死体をぶら下げ、大声で泣きました。当然、お客さんは拍手をしませんでした。真っ二つになってしまった猫の死体は、サーカス小屋の裏に埋められました。

その猫が再度この世に生まれると、今度は泥棒の飼い猫になりました。猫は泥棒も嫌いでした。泥棒は暗い街を猫と一緒に歩き、犬の居る家にだけ荒らすことにしました。犬が猫に向かって吠えているあいだに、泥棒は家の中を荒らし、金品を持っていきました。ある日、猫は、犬に咬み殺されてしまいました。泥棒は、咬み殺された猫の死体を抱いて、大声で泣きながら夜の街を歩きました。家に帰って、小さな庭に猫の死体を埋めました。

その猫は再度この世に生まれると、今度は年寄り夫婦の飼い猫になりました。猫は年寄り夫婦が嫌いでした。お爺さんとお婆さんは、猫を抱いて、小さな窓から外を眺めていました。猫はお爺さんとお婆さんの膝の上に乗って暮らし、やがて歳を取り、人間の年齢で2人と同年齢になった時に老衰で死にました。2人はヨボヨボになって死んだ猫を抱いて、1日中泣きました。そして、庭の木の下に、猫の死体を埋めました。

その猫は再度この世に生まれると、今度は小さな女の子の猫になりました。猫は女の子が嫌いでした。女の子は猫をおんぶしたり抱っこしたりして、一緒に寝たりもしました。ある日、猫は、おんぶ用の紐が首に巻き付いて死にました。女の子は大声で泣きました。そして、猫の死体を庭の木の下に埋めました。

猫は、死ぬのなんか全然平気だったのです。生き物は死んでも魂だけは死なないのです。この猫は、死んでも黄泉の国に行かず、他の牝猫の体に宿り、その牝猫が出産して再度この世に生まれるのですから。

その猫は再度この世に生まれると、誰にも飼われない野良猫になりました。猫は初めて自分の猫になりました。猫は自分が大好きでした。ある日、白い牝猫の婿になりました。「君はまだ1回も死んでないんだろ。俺は君と違って、100万回も生きたんだからな」と牝猫に自慢します。

その牝猫は沢山の仔猫を出産します。「俺は100万回も…」と言わなくなったのはこの時からです。その仔猫も、大きくなって各方面へ巣立ち、色々な人達の飼い猫になると、2匹は歳を取ります。

やがて白い牝猫は永い眠りにつきます。猫は泣きました。朝になっても昼になっても夜になっても、「死ぬな、死なないでくれ、君が死んだら俺は、俺は…」と大きな声を出して100万回も泣きました。

そして泣いていた猫も牝猫の隣で永い眠りにつきます。そして2匹とも生き返ることは有りませんでした。